さんぽみちのちしつColumn

第44話 ~黒ぼく土とスイカ~

2024年04月10日(水) 

 「黒ぼく」と呼ばれる土がある。黒くてほくほくとした軽い土で、山形県では村山市の北部から大石田・尾花沢市周辺、つまりスイカの名産地♪に多く分布する土壌である。火山灰を起源とし、その風化土に腐植質の有機物が強く結びついたものとされる。日本では、国土の約30%がこの黒ぼく土壌であり、柔らかく耕しやすいことより広く畑や果樹園、牧草地等として利用されている。ただし、世界的には全土壌の1%にも満たず、実はかなり珍しい土なのだそうだ。
 
 この黒ぼく土、黒々としていかにも栄養満点の素晴らしい土のように見える。実際、農産物の直販サイトなどでも「栄養豊富な黒ぼく土で作られた」と謳(うた)っているところが少なくない。植物が育つ上で重要な三大要素と云えば、窒素N・リン酸P・カリKであるが、この黒ぼく土、リン酸を吸収して固定化(植物に吸収できない化合物化)してしまう困った特性がある。リン酸は花と実の養分とされ、不足すると実がつきにくくなるほか、初期生育が遅れ根張りが悪くなる、葉が小型化し色が浅くなり光合成の能力が低下するなど、植物にとって重篤な障害が生じる。火山灰には、成分としてアルミニウムが多量に含まれている。アルミは、酸性の環境で溶け出してリン酸と結合し、水に溶けないリン酸アルミニウムを作り出す。殊に本県の北村山地区に分布するものは、非アロフェン質黒ぼく土と呼ばれるタイプで、降雨の浸透により含まれるカルシウム(石灰)やマグネシウム(苦土)分が溶脱しやすく、これが少なくなると土は強酸性となり、ますますアルミ分が溶け出しリン酸を奪い取るという負の連鎖を生じる。黒ぼくには、通気性や保水性が良好で病原菌が繁殖しにくいといった火山灰質土壌本来の特長はあるものの、それだけであの瑞々(みずみず)しい大きくて甘いスイカが出来るわけでは無い。適切な成分の組み合わせによる施肥や、地温を上げ病気の発生を抑制するトンネルマルチ栽培、細心の着果管理など、様々な工夫と努力の積み重ねによりあの夏の味覚が生み出されているのである。
 
 黒ぼく土には、植物ケイ酸体というイネ科植物由来の成分が多く含まれている。また、イネ科植物は草原でなければ繁茂出来ない。つまり黒ボク土が生成される期間、ずっと草原の環境で無ければこの土は生まれないのだ。降雨が多く温暖な日本では、草原には樹木が生え、必ず樹林地へと変化する。なので何世代もの間、自然に草原であり続ける事などあり得ない。そこで考えられるのは焼き畑の火入れである。古代の人々が農地を確保し、病害虫対策として、習慣的に焼き畑を行っていたのでは無いか。その行為が結果的に草原を維持することとなり、黒ぼく土を生成する環境を整えた。つまり黒ぼく土は、古代日本人の営みにより生み出されたものだというそんな説が今、最も有力なのだそうだ。

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