さんぽみちのちしつColumn

第39話 ~肘折温泉は活火山~

2023年09月08日(金) 

 一見、遊園地のアトラクションのようにも見える鉄柱群は、大蔵村の肘折温泉の入口にある肘折希望(のぞみ)大橋である。あの東日本大震災の翌年、2012年の春に発生した地滑りにより、国道から温泉街におりる県道が崩落し使えなくなったため、県は急遽、新たなアクセス道路の建設に着手した。新たな道路は複雑なδ形軌道の鋼製ラーメン桟道橋で、このタイプの橋梁としては日本最大級の規模を誇る。鋼製ラーメン桟橋は、盛土の出来ない山岳道路などで多用されている方式で、多数の鋼管杭を地盤に打ち込み、そのまま上方へ橋脚を立ち上げ、鋼製の床板を載せて剛結するものだ。橋梁工事としては資材費が高くつくが、構造が単純で施工が簡単、何より工期が短いという特長がある。この希望大橋も24時間の突貫工事の末、着工より4ヶ月足らずで仮共用まで漕ぎつけている。


 さて本題の肘折カルデラであるが、今から1万年ほど前の比較的短い期間に活動した火山である。山体は無く火口のみだが、気象庁の分類上では歴(れっき)とした活火山だ。直径2㎞程度の小盆地で、周辺8㎞程度の範囲にその噴出物が載った火砕流台地が展開している。カルデラ内では現在も地熱活動が活発であり、カルデラ中央部に黄金温泉、東端に肘折温泉がある。肘折温泉の源泉の多くは高温の沸騰泉で、川から水を引いて井内に注入し温泉水?を回収しているのだという。また、かつて近傍で、高温岩体発電のための大深度試掘調査が行われたことがある。250℃を越える高温が確認されたが、得られるエネルギー量が期待ほど多くなく、その後開発が進んでいない。


 肘折火山の岩石は流紋岩~デイサイト質で、極めて粘っこい溶岩だった。このタイプの火山は爆発的な激しい噴火活動をすることが知られている。ここでチョット1万年前にタイムスリップしてみよう。月山北東麓の何もない丘陵地に、突如として小さな火山噴火活動が始まった。溶岩ドームの成長とその崩壊(火砕流)を繰り返し、火山は徐々に拡大していく。あるとき、火山内部の高熱と多量の浸透水により巨大な水蒸気爆発を生じ、山体のあらかたが吹き飛ぶ。その後、火山活動の沈静化と共に山体跡が200~300mも沈降し、陥没カルデラとなった。火山活動後しばらくは、カルデラ湖の環境となり、流れ込む銅山川によりカルデラ内の埋積が行われ、同時に周辺のカルデラ壁や火砕流台地の下刻浸食が進んだ。その結果、湖は干上がり、現在のような盆地地形が生まれたものと想像する。


 当地に湧き出す湯を見つけた老僧(地蔵権現)が折れた肘を癒やしてから1200年あまり、雪深い山里のひなびた温泉街は今も人々の旅情をかき立てる。かつては体の傷や疲れを治すために、近郷近在の人々でにぎわった湯治場の湯。今は現代社会に荒み、日常生活に疲れた人々の心を癒やす新たな効能に、人々が惹(ひ)かれ訪れる。

 

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