さんぽみちのちしつColumn

第27話 ~米沢はおいしい~

2022年07月08日(金) 

米沢市街地の西方、一刀彫りの里・笹野本町の背後に笹野山がある。頂にテレビ局の送信所が並び、市街地側から見ると定高性の峰が横になだらかに連なっている。尾根筋には遊歩道が整備され、早春、残雪を踏みしめながらの縦走トレッキングは特に人気が高い。笹野山を中心とするこの山列を斜平山(なでらやま)とも称し、山形百名山にも数えられている。米沢の人は山肌の残雪の模様で春の訪れを知り、農作業の準備を始めるそうだ。

 

斜平山は南北方向に長く背後に小さな谷川が控えているが地形はそれほど険しくない。特徴的なのは市街地側の東側斜面で、山高の上部1/3ほどが屏風(びょうぶ)のような襞(ひだ)々(ひだ)を有する急崖となっており、その下に緩やかな低丘陵地帯が続いている。急崖部分は裸地では無くほぼ全面が灌木で覆われており、崖下の丘陵地は密度の高い広葉樹林となっている。この斜面は形状から判る通り、明瞭な地すべり地形である。滑落崖とみられる上部の急崖は活動した当時の地形の特徴を残しており浸食もあまり進んでいないことより、時代的にはそれほど古いものではない。但し、斜面下方の丘陵地はその後の変動跡や不自然な段差なども見られず、地すべりとしては安定化しているようだ。

 

この丘陵地上には、水窪ダムと綱木川ダムから引水する県の浄水場があり、その周辺に果樹園が少しあるが、他は殆ど利用されておらず元来の地形を保っている。二十数年前、この丘陵地の谷沢で砂防ダムの地質調査を行った事がある。とりわけ地形が険しいわけでも集落からの距離が格別離れている訳でも無いのだが、山に分け入る道らしい道が無く、民家の庭先から数百mのモノレールを組んで資材を運搬した記憶がある。あまり丘陵地の開発利用が進んでいない地区なのだと感じたものだ。

 

余談だが業務中、庭先をお借りした老夫婦のご厚意で私はそのお宅に上がり込んで弁当を広げるようになっていた。その際供されたのが雪菜のふすべ漬け。ぴりっと辛くて僅かな酸味があり大層美味であった。おかわりを所望してまでたくさんご馳走になってしまったが、季節外れの貴重な雪菜漬け、今考えると大変不躾(ぶしつけ)だったと気に掛かる。私はその後もあの味を忘れられず、種子を取り寄せてとうとう自分で作ることに挑戦した。手の掛かる子供のように慈(いつく)しみながら育てると、何年か後、ようやく満足できる雪菜が採れるようになった。秋に生菜を集めて雪をかぶせ、冬、その下から掘り起こして洗浄し、短冊に切りそろえふすべて漬け込む。(ふすべる:熱湯で湯通しする)想像以上の手間が掛かるが潤沢に食することができるようになった。でもああいうものは、たまに少し食べられるから良いんだね。いくら大量にあってもメインの食材にはならないし家族も喜ばない。苦節十ウン年、雪菜にとりつかれた男の栽培記録はあえなく終焉(しゅうえん)を迎えたのである。

 

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